年の朝
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その年の終わりの夜、自分は毎年のように「紅白歌合戦」を見ていた。

年が移り変わり、その年の鐘が鳴る。

家族の皆が寝入っても自分だけはこの年の初日を見ようと耐えて起き続けた。
途中何度も眠気に襲われたが、その度にゲームやテレビで紛らわし、
負けじとコーヒーも飲んだ。
しかし冬の夜は長く、こんな日に限ってメールや電話も出来ない。

けれどもその闇の中、ただの興味が初日の光のみを待ち続けた。

これは馬鹿のする事だと思うかもしれない。
実際そうかもしれない、こんな役に立たない事をして何になるだろう。
もしかすると何にもならないかもしれない、でも自分はこういう目に見えない事にも達成感を感じる生
き物らしい。
そうする事で自分に自信を付けて、やがては明日の不安に打ち勝つ武器になると信じているから・・・
。

数時間たった頃、未だ暗い世界に光の前兆が現れた。
その前兆は闇を霧と化し、さらにそれ自体の光が増していく。
霧もまだ残る頃、地平線の向こうからオレンジ色の光が頭をだす。

その光は前にも増して、当たりの霧を一掃していく。そして自分の体を照らし、暖かさで包みこんでく
る。

そうだ、今まで待ち続けたのはこの瞬間の為なのだと実感した。

この年の朝、自分はまた一つ小さな自信も手に入れた。
その自信は限りなく小さい、けれども限りなく自分を支え続けてくれる。

これが、この年と言う一日の朝なのだろう。